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【書籍】沖縄 近い昔の旅——非武の島の記憶

森口豁著/凱風舎/1999.5/本体1900円

わかりやすい沖縄入門と、見過ごしがたい見返しの歌

 本書は、沖縄出身の高校の同窓生に導かれ、「琉球新報」の記者として、日本テレビの特派員として、そして現在はフリーとして沖縄にこだわり続けている森口豁の沖縄人(ウチナンチュ)交流録兼沖縄入門である。ここには、シナリオライターの金城哲夫や知花昌一、喜納昌吉、「佐喜真美術館」の佐喜真道夫、また対馬丸、ジュゴン、人頭税といった、沖縄に興味をもつ人なら知っているような人や事柄と、もっと個人的な知人たちの戦争体験、民俗文化、孤島の現在などが散りばめられている。

 「ぼくは、この本をできるだけ若い人に読んでほしいと願っている。この国をこんなに醜い国にしてしまったのは大人たちだが、時代を担う人たちには、この国の過去と現在を負の教材、つまり反面教師として、なんとしてもプラスに変えてほしいと願っている……それぞれの文章が、多分にして二項対立的な図式になったのもそういう理由からである。」(太字:原文では傍点)

 森口の「あとがき」、つまり本書の視点である。

 正直なところ、読み進むにつれ何とはなしの「ヤな感じ」がまとわりついて仕方がなかった。例えば筑紫哲也や池沢夏樹にみられるように、沖縄を愛するあまりにありがちな、立場のぐらつきも感じないではなかった。どの人もどの事項も一冊のあるいはそれ以上の書物が書けるようなものだから仕方がないのだが、それにしても物足りなさの残る項目が多く、こんなところでまとめてどうする、という煮えきらない感じ。それは、「あとがき」を読んでおおむね合点がいった。あとはこの中からもっと知りたいことを拾い出し、次々にステップアップしていけばいい。充実した脚注や豊富な写真も含めて、沖縄とその戦後史、沖縄をとりまく問題について知りたい人にはオススメだ。

 しかし、もう一つの「ヤな感じ」はもっと具体的な問題だ。つまり表見返しに印刷された森口の作詞、海勢頭豊作曲による「九月四日の誓い」と題された歌と、裏見返しの「新国民歌 われら愛す」という芳賀秀次郎作詞・西崎嘉太郎作曲による混成合唱曲との二つの歌詞付き楽譜である。おかげで私にとってはこの本自体が「ヤな感じ」で始まり「ヤな感じ」で終わるという不幸な構成になってしまった。

 「九月四日の誓い」は、一九九五年の「少女暴行事件」の少女に寄せた歌である。これを読んだ瞬間に、同じ事件に題材をとった喜納昌吉の「少女の涙に虹がかかるまで」という歌と、それを集会主催者として舞台袖で聞いた時の、喜納がまさに「歌いあげる」というように歌いあげ、聴衆が踊りながら感動をもって応えるというその「ヤな感じ」、「この曲がねぇ、本当にいいんですよ、僕は涙がでるなぁ」というようなことを進行の男性が囁いた「さらにヤな感じ」とが甦ってきた。

 森口の詞の方は、喜納のものよりはクールに見えるが、よく読むとこの「わたし」が森口なのか、少女なのかよくわからない。「わたし」=森口の「胸のなかは月のない夜のよう」で、「闇を照らすお月様」を欲し、九月四日に誓いをたてたというのなら、「ヤな感じ」はしない。が、本文に「人前に名乗り出て言いたいことも自由に言えない一人の少女の気持ちをおもんぱかって書いた」とある通り、「わたし」=少女の気持ちであるというのなら、それはやはり違うだろうと思う。少女はまだ生きていて、変わってゆく権利も可能性も持っており、彼女の現在の気持ちはそれこそ「おもんぱかる」ことしか私たちにはできない。多くの人々が彼女の「勇気ある告発」に呼応して立ち上がったし、今もそこを原点に闘い続けている。しかし、「少女に勇気づけられた私」と、「少女の気持ちになる私」とは自ずから違う。私はこれらの歌に、少女を九五年のあの時にピンで差して保存しておくような痛々しさを感じる。少女を忘れてしまうのではないけれども、少女のためではない自分自身の闘いを、私たちはすべきではないのか。

 また枝葉末節のようにも思えるが、「強姦者」を「獣」に例えるのも、そろそろやめて欲しい。性欲の強さを「獣のよう」、本来人間以外はほとんど行わない強姦を「獣の行い」とすることで、強姦を男性の本能からくる「どうしようもないこと」と一定正当化するために役立ってきた表現である。

 もう一つの「国歌」論について言及する紙幅がなくなってしまった。私は「この日本を愛します」なんていう歌に共感はしないし、「君が代」よりましに見えても「うたは一度権力の側に委ねられると取り替えしのつかない結果を招くことになる」と森口も指摘する通りで、「誰もが喜べる国旗や国歌」などというフィクションに加担したくないと、述べるにとどめる。

(「インパクション」115号 99.8)

【補】いろいろ書いてますが、「戦後沖縄問題と呼ばれるものにどのようなものがあるか」ということを、網羅的に手軽に知るためにはとてもいい本です。この本の中から、自分が興味を持ったトピックについて、自分で探して深めていけばよいことで。

【補2】この原稿が掲載された後、新崎盛暉さんが自著(「沖縄同時代史第9巻」)に収録された同書の書評の「補記」として、「わたしとは力点の置きどころがまるで違うが、共感できる書評であった」と取り上げてくださいました。めちゃくちゃ嬉しかったです。(2008.3.15)

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