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【映画】メランコリア 三つの部屋

メランコリア 三つの部屋

ビルヨ・ホンカサロ監督/カラー/104分/2004年度作品/フィンランド・ドイツ・デンマーク・スウェーデン映画/原題「The 3 Rooms of Melancholia」

隣り合った三つの部屋をつなぐ道

 チェチェン紛争をめぐる、子どもたちを映し出したドキュメンタリー。「三つの部屋」とタイトルにある通り、三つの場面に別れており、一つ一つの「部屋」にタイトルが付いている。しかし、これはチェチェン問題を読み解くための映画では、必ずしもない。一定程度の知識がなければ、何のことかわからないシーンも多い。静かな音楽、最小限の説明と最小限の音。映像詩とでもいった方がよいような静けさの中で、淡々と日常が過ぎていくだけである。部屋が三つならんでいることの意味を読み取るためには、想像力が必要になる。

 一つ目の部屋。サンクトペテルブルクの沖合に浮かぶ、コトリン島のクロンシュタット。バルチック艦隊の基地でもあるそこには士官学校がある。映画に登場するのは十歳から十二歳の少年たち。職業軍人の祖父の希望で入学した少年。親戚の間をたらい回しにされた末にやってきた少年。母子家庭で、母も軍人としてチェチェンに赴任したためにやってきた少年。そしてチェチェンに駐留していた父を失った、グロズヌイ生まれのロシア人の少年。多くの少年が「保護者の不在」「居場所の確保」のために、この学校へやってきている。それは貧困や奨学金のために「志願兵」となる青年たちと、同じ構造だ。

 海を渡った対岸では、やはり同じ年ごろの子どもたちが名門のバレエ学校や音楽学校で学んでいる。かつてニジンスキーが貧困のために名門ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学したことは有名だが(寄宿舎も授業料も無料だった)、この少年たちが学んでいるのは敬礼の作法であり、行進の仕方であり、銃の撃ち方だ。行き着く先は世界のひのき舞台ではなく、戦場そのものである。

 二つ目の部屋はグロズヌイ。チェチェン共和国の首都だ。不思議な静けさの中のその街は、剥き出しの廃虚の街でもある。縦半分に割られたビルがそのままに立ち並ぶ光景。四つ角にあったアパートだろうか、その建物は角の部分が見事にえぐり取られ、しかし人々は無事だった部屋で生活を営んでいる。民生委員なのか、いわゆるボランティアなのか、一人の女性がアパートを訪ねる。夫は死に、妻は病気でもうどうにも立ち行かない。この女性は、子どもたちを施設に預けるべく、迎えにやって来たのだ。女性は妻を気遣いながら、子どもたちを車に乗せる。延々と、延々と、車は走り続ける。

 三つ目の部屋は、チェチェンの隣国、イングーシ。コーカサスの高原。どこまでもどこまでも続く、もやに包まれた緑の丘陵。そこで追い立てられる羊の群れ。シノプシスには「難民キャンプ」とあるが、むしろ「孤児院」とでもいった方がイメージがつかめるかもしれない。「難民キャンプ」という言葉から浮かぶ光景とはかけ離れた場所だ。まるで、世界の果てにぽつんと置き去られたような、村とも家ともつかぬ場所。そこで暮らすのは、先程の女性が連れてきた子どもたちである。チェチェンの路上で保護された、ロシア兵にレイプされた少女。レイプされた少年。経緯のまったくわからない少年。二人の少年が、この世に互いを知る者はほかにいないかのように寄りそう姿が痛々しい。そして小さなモスクの中で行われる儀式。彼らはイスラムのしきたりの中で、いつ終るともわからない「生活」を続ける……。

 士官学校の子どもたちのあどけない寝顔と、イングーシのキャンプの子どもたちのあどけない寝顔。同じように社会から阻害されながら、その辿る道の違いに呆然とする。一方の子どもはやがて兵士として戦場に派遣されることになるだろうし、もう一方の子どもは戦場の結果としてキャンプに眠る。この士官学校の少年たちがやがてチェチェンで、あるいは別の場所で、少女/少年をレイプしたり、暴行したりするのだろうか。その「犯人」である兵士たちは、かつては彼らのような子どもたちだったのだろうか。クロンシュタットからイングーシまでまっすぐに貫かれたこの道筋は、子どもから兵士への、あまりにも大きな変貌の道でもある。その道を辿るのが、保護する者のいない子ども、自分で自分の運命を決められない子どもたちであることが、一層胸を締めつける。

 二〇〇二年モスクワで、チェチェン独立派武装グループによる劇場占拠事件が起きた。士官学校でも、難民キャンプでも、子どもたちはテレビでそのニュースを見る。同じ映像を見ながら、まるで違う思いを抱いているであろう、二つの部屋の子どもたち。この事件の際に武装グループに指名されて交渉に当たったジャーナリスト、ポリトコフスカヤも今年十月八日にモスクワで暗殺された。イングーシのどこまでも続く丘陵地帯はまた、いつ終るとも知れない戦争とキャンプでの希望のない生活を暗示させる。美しい風景は希望や癒しではなく、底知れぬ絶望をも描き出すのだということを、初めて思った。

(「運動<経験>」19号 2006.12)

【補】淡々とした映画です。淡々としたあまり、正直に言うと「グロズヌイ」のパートの途中で寝ました。寝たのに評書いてます。すいません。

 ワガノワの話は映画の中には出てきません。少年たちの訓練の様子を見ていて、「あ、この向こう岸ではワガノワの……」と思っちゃっただけ。記憶があいまいだったので本文では書いていないけれど、士官学校に入った「親戚をたらい回しにされた少年」は確か、母子家庭でお母さんがアル中で入院中、だったと思う。何人か出てきた子どものうち、「祖父が軍人」以外の子は、みんなどこか「厄介者」扱いだった印象。グロズヌイ生まれの子は、母親(軍人なので家にいない)との関係はよいけれど、家には年を取って目が見えなくなったおばあさんが一人いるきりで、養育者というような人はいない。そのうえ、グロズヌイ生まれだからチェチェン人だろうということで(実際は駐留ロシア兵の子どもなのだが)学校でも差別を受けている。どの子の話だったか忘れたけれど、休暇前にお母さんに迎えに来てもらうために電話をかけるのだけれど、ちゃんとそれは「先生」が盗聴してるシーンがある。脇には「防諜」ポスターが貼ってあったりしてね(笑)。軍隊なんだよね、やっぱり。行進と敬礼の練習を廊下でやるところはちょっと笑っちゃったけどな。

 イングーシのパートは本当に美しい分だけ救いがない。男の子二人が、お互いに着替えの手伝いをしている場面は、本当に「この世に二人きり」な感じで、痛々しいを通り越して妖しささえ感じる。

 もう見る機会のない映画かもしれませんが、いつ機会があるかもわからないので(06.12)

 公式サイト(山形国際ドキュメンタリー映画祭in東京)はこちら 。「チェチェン総合情報」のサイトはこちら

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コメント

「先生」が盗聴してるシーンがある、そうですがこれは単なる先生の「お仕事」だと思います、検閲ってヤツですね。(先生も盗み聞きの意識=罪悪感は無くて単なる業務)
あとイギリスの兵隊さん(舞台は現代)モノのTVドラマ(BSでやんないかな)でも衛兵交代のセレモニーの練習を将校2人が自宅の庭でするシーンがあります、庭だろうが廊下だろうが他愛も無い(軍隊モノのお約束)シーンだと思います。

アナベル・加トー少佐さん、コメントありがとうございました。

 私も、先生は罪悪感ナシの単なる業務として、検閲=盗聴をしているのだと思います。それでも例えば高校の寄宿舎でそれをやるかといえば……ロシアではわかりませんが、日本ではそりゃ問題になるだろう、と思います。「罪悪感ナシの単なる業務」としてそれが成立することが、やっぱり軍隊の軍隊たる所以だろうし、軍隊でなくともそれが当然だという社会はイヤだな、と思った次第です。

 それから廊下での行進などの練習の場面ですが、何人かが自主トレとしてやってるのではなく、授業そのものを廊下でやってるんです(わかりづらい書き方ですみませんでした)。もちろん、外が半端じゃなく厳寒ですから、冬場の臨時措置なのかもしれませんし、授業中なので廊下を通る人がいないという前提なのかもしれませんし、たまたま体育室がどこも空いてなかったのかもしれませんが。

「授業そのものを廊下でやってるんです」
ってのは、”学校の設備が悪い”の間接描写なんですかね、わざわざ映画の一シーンとしてやるってことは。
自分はてっきり自主トレかと思い込んでしまった。

その場面の前後に何か説明(この日特別にそこで授業をやるといったような)があったかどうかはもう覚えていません。記憶が曖昧ですみません。ただ、「間接描写」かどうかは、むしろ見る者の意識次第ではないかと思います。単に絵的に面白かったのかもしれませんし、監督がその場面を普通の情景だと考えていれば、「わざわざ」ではなく「平凡な日常」を撮ったということになります。

伝統のある兵学校なので、建物全体に古いのは否めませんが、「2006年(私が映画を見た時点)の東京」から見れば古くとも、「2002年(映画撮影時)のロシア」から見れば、特に古いとは思わないかもしれません。そんなようなものですね。いろいろと舌足らずで申しわけないです。

映画としては、どのパートもとても淡々と「子どもたちと、その置かれている状況」についてを映し出していて、どちらかといえば「解説不足」の感もありました。

この上映会からもう2年半が経ちますが、その間にBSで一度、海外ドキュメンタリー枠で放映されたようです。もう少し、見る機会があるといいのですが。

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