フォト

最近のトラックバック

Amazon Search

無料ブログはココログ

« 【映画】パール・ハーバー | トップページ | 【映画】ハウルの動く城  »

【映画】千と千尋の神隠し  

千と千尋の神隠し
監督/宮崎駿 2001年作品

たまには何も考えないでお風呂に入ろう

 年明け最初に観る一本だし、去年は本当にいいことがないって印象だし、年末ぎりぎりまで残業でくたびれちゃったし、このところウツ入ってるし、難しいもんは観たくないよお、「癒され」たいわけじゃないけど疲れたくないよお、てなわけで、今更ながらこういうものを観てみました。

 去年の七月から延々と上映し続けている『千と千尋』も、今号が発売される頃にはようやく終了するらしい。長かったなあ。『キプールの記憶』なんか今日観に行ったら「昨日で終了しました」なんて言われちゃったよ(六週で打ち切り)。それでも正月休み中とはいえ、池袋の映画館はいっぱい。二館上映で、六時半からの回でも親子連れが多かった。

 千尋は十歳の女の子。親の都合でいやいやながら引っ越しの町に着いたところ……が、父親が道を間違えて山の中腹の「変な門」に着いてしまう。嫌がる千尋を後目にどんどん「探検」してしまう父と母。ついでに屋台に山盛りになっている中華風ゴチソウを食べ始めた両親に耐えきれなくなった千尋が先へ進むと河の向こうにどでかい悪趣味な建物が。橋のたもとでは美少年が千尋を「早く戻れ」と追い返す。急に夜の闇がくるわ、バケモンはわらわら出るわ、両親は豚になってるわ、道は河に阻まれて進めないわ、もうめちゃくちゃ。美少年ハクの言うとおり、悪趣味な湯屋で働くしかなくなった千尋は、雇用者の湯婆婆に「千」と名付けられる。

 この湯屋は「八百万の神」が疲れを落としにくるところ。「景気のいい客が来ている」というのでカラになった従業員の部屋から千尋は、ハクが化身した龍が紙の式神に襲われているのを見る。湯婆婆の部屋で瀕死のハクに駆け寄った千尋に、湯婆婆の姉・銭婆と名乗る映像が、ハクが銭婆の印鑑を盗んだと言い、湯婆婆の赤ん坊「坊」をネズミに、手下をハエドリや偽「坊」に変える。一方「景気のいい客」は実は千尋が以前親切にしたカオナシという化物で、湯屋は大騒ぎになっていた。千尋は飽食したカオナシに腹の中身を吐かせると、「行きっぱなしの電車」に乗って、銭婆の家に向かった……。


千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]DVD千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]


販売元:ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

発売日:2002/07/19
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 宮崎は「この映画のねらい」(パンフレット所収)で言葉の力の復権と、伝統の継承を挙げている。そのわかりやすいモチーフが「名前による支配」である。湯婆婆は千尋との契約書から名前を取り上げ、「千」と名付ける。千尋は自分の名を忘れそうになる。ハクは既に自分の名前を忘れてしまい、帰る場所がわからない。物語の終盤で、千尋に本当の名前を思い出してもらい、湯婆婆の呪縛から解放される。

 名前を知ることはその者を支配すること、というのは古今東西の伝統でもある。「大工と鬼六」もそうだし、「トム・ティット・トット」も「ルンペルシュティルツヘン」もそうだ。アイヌの女性を主人公にした本多勝一と石坂啓の「ハルコロ」でも、悪い神に名前を知られないように、本名を使わない習慣が描かれる。先だってアイコなる乳児のニュースを見ていたら、皇族を「宮」で呼ぶのも同じ理由らしい。そういえば、コーアンがわざわざ名前を呼んで嫌がらせするのも「お前を把握してるぞ!」って恫喝だな。

 とまあ観ながら考えることはないわけではないが、この際何も考えないで観るのがいちばんいい。オーソドックスなファンタジー「往きて還りし物語」を楽しめばいい。出てくる「不思議」に何の答えも用意されていないという意味では確かにオーソドックスではないのだが、そんなことが気にならないようにうまいこと作ってある。ルイス・キャロルに比した論者もいたが、むしろ舟崎克彦の世界に近い。ちゃんと「異界からのおみやげ」もあるし。キッチュな温泉街も、人(?)がいいけど欲もある登場人物たちも、観ているだけで十分楽しい。特にあらゆる意味で過剰な湯屋から一転して、雨降りでできた海の上を進む電車は、「銀河鉄道の夜」の「新世界交響楽」を思い起こさせて爽快だ。「手はおひざ」のカオナシも、窓からの景色に夢中な坊ネズミも無性に可愛い。単純に映像を楽しむことも、映画の特権だ。

 しかし、この街も実のところ、衰退していく過程にあるのではないか。「前は戻ってきたけど今は行きっぱなしの電車」はその象徴だ。「名のある河の主」は様々なゴミを飲み込んで「オクサレさま」になってしまう。ハクのいた河は埋め立てられてマンションになった。甘やかされただだっ子の坊が、体を動かし、外に出ることの楽しさを知って親離れし、カオナシが「自分が役に立つ場所」を得たことはまた、二人にとってだけでなく、現実の子どもたちにとっての救いでもある。母親に支配されているくせに、自我を肥大させて巨大化した坊も、逆切れする勘違い野郎のカオナシも、子どもたちの姿なのだから。そしてそのような現実だからこそ、この映画は観客を動員し、ロングランを続けたのではあるまいか。

 とにかく、温泉につかってアカスリのひとつもしてもらえば、大概のクサレは大丈夫(異論がありそうだが)。たまには何も考えずにお風呂に入って疲れをとろう。今年もまた、走り続ける日々がやってくる。 

(「季刊運動<経験>」4号 2002.2)

【補】「キプールの記憶」は、イスラエルの救急隊員が主人公の映画。詳しいことは忘れちゃいました。チケぴで券を買って、翌日に映画館に行ったらやってなかったの。しくしく。窓口で「昨日買ったのにぃぃぃ」と言ったら、えらそうな人が出てきて、払い戻しはできないけど好きなのを観ていっていい(3プログラムが上映されていた)と言ってくれたので、「シャンプー台のむこうに」を観て帰った。これはこれで面白かった。翌日、チケットビューローの前を通ったら、まだ売ってた(笑)。それから「舟崎克彦」は「ぽっぺん先生シリーズ」の作者です。このシリーズ自体が「中年のアリス」と言われてるけど。大学の生物学教授、中年で風采が上がらず、母親と二人暮らしという「ぽっぺん先生」が、やたらと「なぞなぞの本」とか「埴輪の穴」とか変な世界におちこんじゃあ、どたばたに巻き込まれるっていうシリーズ。「赤い鳥文学賞」かなにかとったんじゃないかな。機会があったら読んで下さい。商売的には「小学校高学年から」です。「銀河鉄道の夜」はますむらひろし原作のアニメ版。「新世界交響楽」のシーンはシュールだけどいいよぉ。「千と千尋」に関しては解読本も出てるけど、何にも考えないのがいちばんじゃないのかなー。(04.7)

« 【映画】パール・ハーバー | トップページ | 【映画】ハウルの動く城  »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【映画】千と千尋の神隠し  :

« 【映画】パール・ハーバー | トップページ | 【映画】ハウルの動く城  »