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【映画】ジャズ大名

ジャズ大名

監督/岡本喜八 1986年作品/大映

非良心的兵役拒否でいこう!

 特別できがいいわけでもなくて、しかもB級っていうよりも高校生が文化祭で作った八ミリみたいなヤツで、だけども無性に愛しちゃうんだよな、という映画というのはやっぱり存在し、それはたいそう幸福な出会いなのだ。「a movie」時代の(というのは「漂流教室」以前の、という意味だ)大林宣彦にもいくつかそんな映画があるが、これもまた、岡本喜八のそのひとつ。

 映画は唐突に、リンカーンへの手紙から始まる。南北戦争後のアメリカ。奴隷から解放されたものの、食うにもことかく黒人ジョー。船に乗り先祖の土地アフリカへ帰るべく、トロンボーン、クラリネット、コルネットに太鼓のカルテットで金を稼ぎながらニューオリンズへ向かう。しかし、やっと乗り込んだ船の中でクラリネットのボブが病死。船も大嵐に巻き込まれて三人はボートで脱出する。そして着いたところは駿河湾の小藩。

 時あたかも幕末。小藩とはいえ交通の要所にあるこの城は、上は山越えの難所、下は海岸の難所、城内(「城下」じゃないのがミソ)を通るのがいちばん早いと薩長から旗本まで、あらゆる人々が通り抜ける。堅物の家老(財津一郎)からはお家安泰を、若い武士からは左右のいずれにつくのかを突き上げられ、藩主海郷(古谷一行)はいいかげんウンザリ。そこへ漂着したのがくだんの三人。会ってみたくてたまらない藩主は、城の地下の座敷牢に彼らを運び込む。地下から彼らの音楽が聞こえてくると、自らもひちりき(雅楽の笛)を「たしなむ」藩主はもうしんぼうならない。ボブのクラリネットを譲り受け、朝も晩も吹き鳴らす。嘆く家老をよそに、城内にはにわかジャズブームがまきおこるが、江戸表からは薩摩屋敷焼き討ちの知らせ。東からは薩摩浪士の残党とそれを追う小田原藩兵、西からは薩長軍。覚悟を決めた藩主は命ずる。「畳を返し、建具をはずし、調度品を片づける!」かくて、地上を通り抜ける戦乱をよそに、城内すべてのものがもぐった地下の座敷牢で、いつ果てるともないセッションが続くのだ……。

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 なにしろ役者がみんなハマっているし、ギャグがこれまたベタ。財津一郎の「いえいっ」はいつ聞いても天下一品だし、医者の殿山泰司が繰り出す「お約束ギャグ」の数々はどうだ。「OK」といえばオケが出る、「TRY IT」といえばタライが出る。藩主の末妹・松枝役、ぽっちゃりした岡本真実(今はどうしてるんだろう)が、素人っぽいセリフ回しで要所要所のツッコミをクールに締めている。松枝がツッコミ切れないところは、無声映画風の字幕がきっちりツッコミを入れる。ああ、やっぱ「『肉弾』の岡本喜八」だなあ、このベタベタさ。だから思わず愛してしまうのだ。

 この映画については何度か書こうと思いはした。タイトルは「良心的兵役拒否国家の限界」。何しろどっちの側にもつかないとはいえ、双方の調停にまわるどころか、通行の便を図ったあげくにトンズラ決め込む藩である。藩主だって別に人道主義なんてもんじゃない。不況と政情不安で自殺者が増えても、なんの策も打てない、というより打ちようもない貧乏藩だとあきらめて、へたなひちりきだけを楽しみにしているような男である。地上で血みどろの戦いが行なわれている真っ最中に、我関せずでヤケクソのセッションに没頭する。建設的なものの何一つない、内向きに内向きに発散するエネルギー。それは、やはり中立国家の限界に見える。「一国平和主義」ってか。

 いいじゃん、それで! と、イラク戦争を経て、有事法制も通過した今、思うのだ。音楽は地球を救うとか、人を殺すなら私が殺されるとか、信念に基づいて戦争に協力しませんとか、いいのよ、そんなのどうでも。立ちふさがったらそこで、両軍相手に戦争やらなきゃならないべよ。やりたくないからやらない。ぐうたらでもヤケクソでも自己チューでも、信念に基づいてでなくても、どっちの側にもつかない。幕軍も官軍も我を忘れて踊り狂う様は、音楽による和解のようにも見えるけど、そんなことは問題じゃない。問題なのは「いちぬけた!」っていうこと。代わりの奉仕活動も調停も人道支援も知らん。とにかくオレはやんないよ。チョムスキーだって言ってるじゃん、テロをなくすには参加しないこと。戦争だって同じ。まあ、個人レベルではそれでいいけど、国家がそれじゃ困るんじゃない? そう、だから演奏場所が「座敷牢」なのは偶然ではない。戦争の始まりとともに格子がはずされ、拒否者であふれかえってゆこうとも、「牢」と「参戦」とは二者択一としてある。

 ラスト、一声で「一時停止」とし、地下より上がった家老は、過ぎ去っていく官軍の行進(パレードだかマーチだか)を見送る。ちーらーりらったった。官軍行進曲と共に江戸時代は過ぎ去り、明治元年。藩の上を時代が過ぎ越していったのだ。地下に戻った家老はカウントを刻み、再びセッションは続く。それは取り残され切り離された人々のようでもあり、過ぎ越しの祝いの宴のようでもある。

(「季刊運動<経験>」10号 2003.11)

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