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【映画】ホタル

ホタル
監督/降旗康男 2001年作品

「感動した!ありがとおおっ!」が聞こえてくるよな、やっぱ

 桜島の見える海でカンパチの養殖を営む元特攻隊員の山岡(高倉健)と腎臓透析を続ける妻の知子(田中裕子)。「昭和天皇」が死んだ日、山岡の部下で今は八甲田に住む藤枝(井川比佐志)が突然、知覧の特攻平和会館から山岡の家に電話をかけてくるが、行き違いになる。そして「大喪の礼」の日、藤枝は八甲田山で自殺する。「特攻の母」と言われた富子(奈良岡朋子)は老人ホームへ入りたい、と言い出し、山岡に、山岡と藤枝の上官であった金山少尉(小澤征悦)の遺品を遺族に届けて欲しい、と頼む。金山少尉は本名キム・ソンジュという朝鮮人の特攻兵であり、知子の許嫁でもあった。しぶる山岡だが、知子の命があと一年余りと聞いて、二人で韓国へ行くことを決意する……。

 とまあ、こんな「現在」(と言ってももはや十年前だなぁ)を軸に、藤枝の孫、真美(水橋貴己)にオトナたちがそれぞれに語る回想が織り交ぜられながら、物語が進む。

 いやもう、泣き所満載! 半分も行かないうちからそこいらで鼻すすりまくってる音が聞こえてくる。藤枝が特攻平和会館で見る(という設定の)ショパンの「別れの曲」をバックにした特攻機の出撃−特攻−どんどこ撃ち落とされていく実写フィルムあたりから始まって、富子の語る「ホタルとなって帰ってきた特攻兵」だとか、「金山少尉の所へ連れてって!」と特攻機に突っ込む知子だとか、金山少尉が最後の晩に歌うアリランだとか、「不器用ですから」な健さんとか、好きなだけ泣いてくれえ! てなもんだ。

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 確かに、前宣伝の印象よりも、うまいこと作ってある。それは鹿児島から八甲田までの四季折々の美しい映像ということだけではなく、イデオロギーくささを取り除こうとする作り手の意図が、「頑張ったなぁ」という程度に成功しているということでもある。例えば富子は「ホタル」のエピソードを語りながら「どんなにか思い残しがあったんだろう」と、特攻兵の「潔さ」よりも無念を思う。真美の手をつかみ、「これくらい年の子を私は殺した、本当の母なら子どもに死ねとは絶対に言わんだろうに」と言って泣き崩れる。そこでは、旧来の「特攻賛美」「特攻美化」と言われたような表現を押さえ、理不尽な状況による「哀しみ」が強調される。

 しかし全編を通して不在なのはその理不尽な状況に対する「怒り」であろう。藤枝がなぜ「昭和」(主観的には天皇、というより時代なのだろうが)に殉じなければならなかったかは、結局のところわからないし、金山少尉がなぜ特攻兵となったかという背景も歴史的経緯を知らなければ全くわからない。困ったことにプログラムを読んでもわからない。「娯楽映画にどこまでを求めるか」という命題はあるが、もう少しなあ……。

 今回、金山少尉をめぐって、「やっと特攻隊の中の朝鮮兵を取り上げることができた」という評価がある。五十年たってやっと、という感慨についてはひとまず同感するということを前提に、彼の「遺言」についてはやはり指摘しておきたい。

 金山少尉は「検閲があるのに遺言を書いてもしょうがない」と言いつつ、山岡と藤枝の前で独り言のように言い残す。自分は死んでいくが、それは大日本帝国のためではない。愛する「ともさん」のため、家族のため、朝鮮民族の誇りのためである。朝鮮民族万歳、「ともさん」万歳、と。

 ここには二つの問題が含まれている。ひとつは「大日本帝国のためでなく朝鮮民族のために戦った」という朝鮮人兵士像である。それは「朝鮮人なのに日本に協力した」とされてつらい思いをした元軍人・軍属に対する名誉回復ではあるのだが(そして金山少尉の遺族にもそのように機能するのだが)、金山の死の本質を隠蔽しもしてしまう。もうひとつは金山に限らず特攻ないし玉砕一般に普遍化できる問題ではあるが、「国のためではなく、家族のため」という論理であり、さらに犬死に論に対して「少しでも空襲を延ばすことで家族を守るのだ」という、これまでも繰り返されてきた議論である。兵士自身の心情に即して言えば正しいのだろうが、それはあくまでも特攻・玉砕が彼にとって不可避な状況、「そうではない道」をふさがれた上での論理であることを忘れてはならない。「天皇陛下万歳」ではないから天皇に責任がないという話にはならないし、死者に遠慮することで方針の誤りに目をつぶってはいけない。

 さて前述したプログラムは結構異様だ。この種の映画に必ずある「太平洋戦争年表」だとか「モデルになった人」とかいう、事実面での記述がまったくない。鹿児島県の観光広告の中にかろうじて知覧と平和会館の案内がある程度で、無署名の解説文とあらすじの他は高倉健、田中裕子、監督の降旗、木村大作(撮影)、韓国の俳優の談話とスタッフ・キャスト一覧(しかも経歴なし)、高倉健のフィルモグラフィーだけである。あとは田辺聖子だとか無言館館主だとか浅田次郎だとか、試写を観た人々の感想文。そしてそこではやはり「国を護るために死んだ高潔な魂の若者」という、映画で必ずしも強調されなかったステレオタイプな特攻隊員への感動が表現されている。別のコラムでも書いたことだが、「事実」に対する受け手のイメージが、ここでもやはり問われるのだろう。
(「季刊運動<経験>」2号 2001.8)

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