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【映画】英雄の条件

英雄の条件

ウィリアム・フリードキン監督/2000年作品/原題「Rules of Engagement」(交戦規程)

「国旗」ってやっぱり、「国そのもの」なのね……

 あの「プライベート・ライアン」を「反戦の叙事詩」とかって褒めあげちゃったうっかり者の秋山登をして「軍人精神賛美の試みに寒心」と言わせるくらい、気分の悪い映画ではあるが、その分本音がみえておもしろいともいえる。

 チルダーズ大佐(サミュエル・L・ジャクソン)率いる海兵隊の精鋭部隊がイエメンに向かう。反米デモに包囲されたアメリカ大使館から大使(ベン・キングズレー)家族を救出するためだ。無事一家を救出した大佐は、群衆にまぎれた「武装ゲリラ」の狙撃により部下に死傷者が出たことで、民衆への発砲を命じる。デモ隊の中の女性・子供を含め、死者八十三名、負傷者百数十名の惨事。国際世論の非難を浴びて、大佐は軍事法廷にかけられる。弁護してくれるのはベトナム戦争で生死を共にした戦友で、今は弁護士のホッジス大佐(トミー・リー・ジョーンズ)。チルダーズの発砲命令は海兵隊の交戦規則に違反するのか? アル中の「勝てない弁護士」は、チルダーズの処罰で世論をかわそうとする国家安全保障局に、戦友の無罪を立証すべく戦いを挑む……。


 ヘリ空母からの部隊の発進、ペルーの時もこうだったのかと思わせる特殊部隊の作戦行動。なによりも軍事法廷を支配する軍の論理、と「軍隊映画」としての「見所」はさまざまある。しかし、せっかく反天連の原稿なんだから、本筋ではないけれど見ておくべきことについて書いておこう。それは「星条旗」という「旗」のことである。

 以前、ダグラス・ラミスさんが講演の中で、学校で子供たちに星条旗への忠誠を誓わせる話をされていた。「移民国家」アメリカの象徴としての「星条旗」。国旗が国そのものを体現する。この映画でもそれは、十分確認できる。

 イエメンでの攻防シーン。なんとかヘリに押し込んだ大使をおいて、チルダーズと部下は大使館にとって返し、弾丸の中、星条旗を下ろす。「畳んでください」と渡すチルダーズ。「この恩は忘れない」という大使(すぐ忘れちゃうんだけど)。作戦行動の間中翻り続ける星条旗と、それを下ろした後の殺戮。調査のためにイエメンを訪れたホッジスの前に落ちている、焼けこげた大使執務室の星条旗。そして軍事法廷からの帰り道、ラッパと共に下ろされる星条旗を、チルダーズは敬礼しながら見つめ続ける。狙撃手の的として弾丸を撃ち込まれる星条旗と、それを下ろす自分、発砲する群衆を幻視しながら。自分が人生をかけた軍隊の旗。自分を「殺戮者」として追放するかもしれない軍隊の、旗。チルダーズやホッジスにとっても、弾丸を撃ち込む「ゲリラ」にとっても、星条旗は確かに「アメリカそのもの」である。だからこそ、旗に対する忠誠は、国家に対する忠誠なのである。

 軍隊、あるいは国家にとっての「旗」というものがいかなるものかは、有名な硫黄島の、星条旗を立てようとする兵士たちの図柄を思い起こせばいい。その場所に旗が翻ることによって、そこは征服され、占領された「我が領土」となる(そこで大使館撤退の際に国旗の処遇が問題になるし、大使館の中は「アメリカ領土」なのだ。それは軍事法廷の中でもう一度確認される。さらに言えば、在外米軍基地とて同じことである)。

 日本的にいえば、それは「日の丸」だけでなく、「軍旗」「連隊旗」の問題でもある(アメリカにそれに相当するものはあるのだろうか?)。例えば水木しげるの戦記シリーズでも連隊旗をめぐる、反軍と軍国美談すれすれの話がある(「ダンピール海峡」ちくま文庫『幽霊艦長』所収)。また「のらくろ」の中にも、「軍旗(または連隊旗)は連隊の命」というセリフがしばしば出てくる。そのメンタリティは、「旗を掲げる」すべての者が注意深くならなければ、受け継いでしまう要素を持っている。

 さて、映画の本筋。まったく当然のことではあるが、軍事法廷で裁かれるのは、交戦規定に違反しているかどうかである。そこに世俗の価値観は入り込めない。あれだけ発砲の結果の悲惨さが描き出されていても、彼は殺人罪には問われない。惨劇はチルダーズを有罪にしようとする安全保障局の汚い画策によって相殺される。交戦規定に則っていれば英雄、違反していれば殺人者。邦題の「英雄の条件」とはその一点に尽きる。公式プログラムで三人もが主人公の行動と裁判の結果に批判的コメントを寄せている、という点でも珍しい映画だ。

 というわけで、レンタルが開始されたことでもあるし、見ておいて損はないだろう。特に「えひめ丸」事件の審理中の今、軍隊の軍隊による「軍事法廷」というものがどのように運営され、どのような論理で裁かれるのか、一見の価値はある(怒りもよけいに大きくなるけど)。 

(季刊運動<経験>1号 2001.5)

 【補】アメリカ史専門の知人に聞いたところ、アメリカでも連隊旗は日本同様の扱いだとのこと。水木しげるの戦記物に関しては、いつかきちんととりあげようと思いつつ、果たせていない。交戦規程と英雄/犯罪の問題の重要性はどんどん増すばかりだ。あー。(04.2)

【補2】上原稿で秋山登の「プライベート・ライアン」評に「反戦の叙事詩」と引用したけれど、「恐怖と悲しみの叙事詩」の誤りです。すみません。(季刊運動<経験>2号に載せた付記)

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