フォト

最近のトラックバック

Amazon Search

無料ブログはココログ

« 【バレエ】眠れる森の美女キャスト表(09.8.15) | トップページ | 【映画】落葉 »

【映画】花と兵隊

花と兵隊

松原要樹第1回監督作品/2009年/106分

 アジア・太平洋戦争後に戦地からかえらなかった、いわゆる「未帰還兵」。この映画は、ビルマとタイに住む六人の未帰還兵をめぐるドキュメンタリーである。自分にとっての未帰還兵といえば、横井・小野田両氏だったり、水島上等兵だったり、「ムルデカ」だったりしたのだが、自分のそうした知識とイメージの粗末さを反省した次第。

 六人が日本に帰らなかった理由はさまざまだ。帰ると戦犯になってしまう人、そもそもブラジル移民だった人。その決断はそれぞれに重かったのだろうが、それでもそこから感じるのは、今、二〇〇九年のビルマと日本からはちょっと想像しがたいような「地続き」の感覚だ。一九四五年当時のビルマと日本に時間を巻き戻してみるには知識と想像力が必要だが、今の感覚だけではかると見誤ることも多いだろう。


ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月 「花と兵隊」制作ノートBookぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月 「花と兵隊」制作ノート


著者:松林要樹

販売元:同時代社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 そこから六十余年間。「始まり」は戦争ではあるが、描かれているのはむしろ「生活」だとも思う。日本に帰らないという決断をした彼らが、どのような六十余年を生きたのか。残ったことを後悔もし、恋も結婚もし、日本への里帰りもあれば、日本企業の現地採用もあり、ある者は事業で成功し、ある者は多くの子や孫に囲まれ、ある者は妻に先立たれ……。彼らの妻や子どもたちの話を聞くほどに、「人生」というのは「生活」の集積なのだと、あらためて思う。存在するのは「一九四五年から六十余年後」ではなく、「一九四五年からの六十余年間」なのだ。

 そしてそれぞれの人生に共通するのは、「選び取る」という意思。もちろん、「そうせざるを得ない」局面はそれぞれにあったのだろうが、穏やかな中にどこか人生に対する「自信」を感じる。

 その中で異彩を放っているのはやはり藤田松吉だ。今村昌平のドキュメンタリー「無法松故郷に帰る」の主人公である彼は、自分の抱いていた「未帰還兵」というイメージにいちばん近いのかも知れない。ほかの五人が「離隊」という形で残留したのに対し、藤田だけが日本に帰るべく奔走し、十二年後に日本軍が戻ってくるという噂を信じて山村に隠れ住んでいる。その「残留の仕方」と彼の語る戦争の色合いとは無縁のものではないだろう。七三年の「無法松故郷に帰る」での彼の言動はパンフレットに多少紹介されているが、この二本の映画を、さらにはその前の「未帰還兵を追って」(今村昌平のテレビ用ドキュメンタリー)を併せて見ることができないのは、なんとも残念だ。

 題名の『花と兵隊』の「花」とは、彼らの妻たちをイメージしたのだという。坂井・中野の二人の日本兵と結婚し、ビルマ政府の弾圧を逃れてタイに住む、カレン族の姉妹。彼女たちの「のろけ話」にも、苦労を共にして家族をつくりあげてきた自信がうかがえる。それはやはり「人生を選んだ」者の強さであるとはいえないだろうか。

 彼らの歩んだ人生は、遠い向こうにあるものではなく、自分たちと地続きのところにあるような、穏やかな後味の残る映画である。
(初出「インパクション」170号 2009.8)

公式サイト  当日の日記

« 【バレエ】眠れる森の美女キャスト表(09.8.15) | トップページ | 【映画】落葉 »