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【映画】夢のまにまに

夢のまにまに

木村威夫/原作・監督/2008年/日本/1時間46分

 木室(長門裕之)は、妻・エミ子(有馬稲子)の世話をしながら、映画制作の学校・NK学院で若者たちを教えている。足が不自由になったエミ子は、広告チラシでコラージュを創り、最後まで思い出せないピアノ曲を弾き続けている。老いた木室は何かにつけて、自分の過去を思い出すようになる。空襲の最中のエミ子との出会い、焼け跡の飲み屋とそのママ(宮沢りえ)、飲み屋の常連の文士たち。ある日、駅前の広場にある、幹にたくさんの瘤のある銀杏の大樹のそばで、木室はママによく似た銅版画家・中埜(宮沢りえ・二役)と出会う。一方、木室の生徒の一人、腕にマリリン・モンローの刺青をした村上(井上芳雄)は、統合失調症のため学院を中退して故郷の熊本で入院する。木室と村上との手紙のやりとりが始まる——。

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 六十年以上に渡り映画の美術監督を続ける木村威夫の長編映画初監督作品は、彼の美意識の溢れる作品となった。

 現実の木室の日常の中に、いくつもの非現実が放り込まれていく。老人の、自分たちの過去という現実を元にした幻想と心に深く刻まれた傷跡。生に向かって必死にあがきながらも死にからめ捕られていく若い村上の叫びと彼の幻覚の中で踊る「モンロウさん」。そのコントラストが鮮やかだ。失ったものと手の届かないもの、その双方がいいようのない悲しみに満ちている。

 入院した村上に、患者の一人がかけた言葉が書簡の中に出てくる。
 「人間の感情で悲しみ程、美しいものはなかっぞ」
 悲しいものは美しく、美しいものはただそれだけで悲しい。例えば音楽やダンスが美しいほどに、心の奥が締めつけられるような悲しみに囚われてしまうように。そしてその美しく悲しいものが「生きる」ということなのだと、見終わったときに身体の中に行き渡るような、この映画はそういう映画だ。ひとつひとつのモチーフに込められた意味はもちろんあるが、木村の創り出した空気の中にただ身を委ねてしまう快楽によって、その悲しみを身の内に取り込むこともできる。それが「映画」というメディアの持つ、力のひとつなのだとも思う。
 キャストも音楽もそれぞれが突出することなしに世界を作り上げているところもまた、「空気に身を委ねる」ことのできる条件であるようだ。
(初出「インパクション」166号 08.12)

【補】結局、村上は薬の飲みすぎで命を落とすのですが、僕はそれを「自殺」だというふうには思えないのです。その直前に木室に向かって誕生日祝いの手紙を投函していたというのもあるのですが、村上は生きたい、生きようと切実に、切ないほどに思っていたのだと。そして少しでも快方に向かって、木室にもう一度会うのだと、その焦りが彼の薬を増やしていったのだと、そんな風に思えてならないのです。死ぬための薬ではなく、生きるための薬だったと。だからこそ、彼の死と妄想とは痛ましくてならない。
 ほんとうに、悲しみほど美しいものはないのかもしれません。(09/11)

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