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【舞台】葵上・卒塔婆小町

近代能楽集より 葵上・卒塔婆小町

2010年5月2日14:30開演 ル・テアトル銀座

作:三島由紀夫 演出・美術:美輪明宏

 三島由紀夫の「近代能楽集」から2作。プログラムによると、「卒塔婆小町を」という三島に対し、美輪サマの方から「演るなら葵上とセットで」と提案したそうな。確かに時間的にも妥当かと。「葵上」20分休憩「卒塔婆小町」で上演して、カテコ(アンコールなし)で館外に出たのが4時40分頃。座席は8列の下手サブセンター。かなり見やすい。GWということもあってか、ほぼ満席ではなかったろうか。

【葵上】
六条康子:美輪明宏 若林光:木村彰吾
看護婦:城月美穂、高森ゆり子、小林香織 葵:丸山昌子 秘書:小林永幸

 現代(三島当時)。舞台は入院した葵の病室。上手よりに「どこでもドア」、中央に葵の眠るベッド(客席側は足)。ドアの外にダリの時計を模したオブジェ、ベッドの後ろに打ち掛け。下手にやはりダリの時計を模した長イスと、ミロのビーナスの腹部分に抽斗をいくつかつけた電話台。
 秘書を連れたビジネスマンの御曹司の光がやってくる。三人の看護婦は、半袖のナース服ではあるが、キャップの後ろに水引の飾りをつけ、袖の折り返しの赤などもどことなく巫女を思わせる衣装。出張先で葵の入院を聞かされた光があれこれ尋ねるが、妙な精神分析論をぶつばかり。ただ毎日深夜になると見舞いに来る超ブルジョアの女性がいるという。
 看護婦たちが下がって、その女性がやってくる。それは黒の夜会服に身を包んだ、光のかつての恋人、六条康子だった。康子は光をかつての愛し合った二人の幻影に誘い、自分を裏切ることがあったら相手の女性を呪い殺すとの誓いを思い出させる。葵の苦しむ声に現実に戻った光は、康子に電話をかける。電話口に出た康子は、自分はずっと自宅で休んでいたという。どこからともなく康子の「私、忘れ物をいたしました。手袋を」という声が聞こえてくる。電話を取り落とし、康子の手袋とコートを持って駆け出す光。電話からは康子の不審そうな「もしもし?」の声が……。

 キッチュなセット、黒に松をあしらったコート、黒の夜会服。それはもう美輪的世界以外の何ものでもない。そしてそれらと対峙するスーツ姿の木村。それがヨットの出現とともにあっというまに飲み込まれていく。それまでの、ひたすら康子を疎ましく思う光から、康子になつく仔犬のような、それでいて若い傲慢さが見え隠れする無邪気な青年への変化が自然かつ鮮やかで、常に変わらずにいる康子との対比が浮き立つ。ラスト、幻影の康子からの声に引き込まれ、かけ出していく憑かれたような歓喜の表情がオソロシイ。

 それにしても美輪サマ以上に「あそばせ」言葉が様になる人というのは存在するのだろうか、と思ってしまう。セリフは緩急の付けすぎか、やや流れて聞こえにくい部分もあったが、この言葉遣いを自然にこなせる女優をほかに思いつかない。年齢もさることながら「格」だよなあ、と思う。今となっては三島の芝居が難しいのはこのセリフ回しかもしれないなぁ。ヨットを呼び入れる場面、逆に我に返った光を残してヨットで去る場面などは圧巻。

 戯曲では特に指定のない看護婦役を3人に分割。婦長(?)役のベテラン城月が場を締めて厚みを出し、ほかの2人がS的なアヤシサでいかがわしさを醸し出していた。

 そしてこういう場面ではやはり「電話」だなぁ。光が駆け出していった後、コードにつながれた受話器が揺れながら下がっている怖さ。まるで首吊りの死体のように。そしてその奥から聞こえてくる康子の声。ケータイではこうはいかない。


【卒塔婆小町】
老婆:美輪明宏 詩人:木村彰吾 
(詳しいキャストは格納庫に)

 カップルであふれる夜の公園。背景に都庁ビル。下手の階段を老婆(まんまモランだよ!)がよろよろと降りてくる。いくつかのカップルが、老婆を見て悲鳴を上げて去って行く。老婆の後ろから詩人。老婆はあいたベンチのひとつに座って、拾った吸い殻を数える。詩人がじっと見ているのにきづいて吸い殻をひとつやる。詩人は、恋人たちをたたえ、恋人のいない自分を悲しむ。老婆が笑い飛ばさぬうちにチンピラが現れ、それぞれのカップルたちの現実を暴く。詩人は老婆に若い頃の思い出話をせがむ。「私を美しいと言った者は死ぬ」という99歳の老婆、その二十歳の頃、「百夜通えば思いをかなえる」との約束を交わした深草少将の、その百夜目の鹿鳴館の庭。
 照明によって背景が都庁ビルから鹿鳴館に切り替わり、劇場後方からピンクのドレスと燕尾服の紳士淑女が現れる。老婆は「小町」と呼ばれ、紳士淑女から丁重な挨拶を受ける。スノッブな会話の中、老婆は一度下手に捌け白のドレスの「小町」に、そしてコートを脱いだ詩人は「深草」(参謀本部少将って…… ^^)にスライドする。少将は「想いがかなうこと」を恐怖する。今、この幸福の瞬間に死んでしまいたいという少将に重ね合わされた詩人は、「老婆」に「小町」を見て、老婆の止めるのも聞かずに「あなたは美しい」と言い、また百年後の再会を約して死んでいく。

 二つの話を同じキャストが演じることによって、オムニバス以上に「円環」をイメージさせる。

 出だしから「99歳の老婆」の美輪サマがスゴイ。役者としての本領は、むしろこういところなのだろうなぁ。「20歳の小町」の誇り高さと恥じらいを、うなじの見せ方ひとつで感じさせてしまうところもスゴイし、終盤、自分を「美しい」と言わせまいとする「20歳の小町姿の99歳の老婆」がまた一筋縄ではいかないんだな。この年齢なのに、というよりも、この年齢だから、なんだろうなぁ。

 御曹司のビジネスマンから今度は「貧乏な詩人」となった木村は、若者ならではの屈託のない(「葵上」とはまたちがった)無邪気さで舞台を跳ねる。この差異が「御曹司」と「貧乏詩人」の差異なんだな。そこからさらに「深草少将」へ、声をすとん、と落としただけで入ってしまう。都合、4役を演じ分けているようなものだ。さらに詩人から深草へ、深草から詩人へ、トロンボーンのようにフレットレスにスライドしていく。

 フレットレスなのは美輪サマの小町も同様。今回は演出を改め、途中で「老婆」から白のドレスの「小町」への着替えがあるが(以前はずっと「老婆」のままだったようだ)、鹿鳴館の入口は老婆姿のままで小町になり、深草の死の直前は小町の姿のままで老婆となる。2度の錯視と、新宿と鹿鳴館とを行き来する背景が、「この瞬間に死にたい」深草=「死にたくはない」詩人の2つの死を滑らかに重ね合わせる。そして「あと百年」生きて、再び深草を待たねばならぬ絶望。最後の「ちゅうちゅうたこかいな」(←これも死語か)が虚しく、最後に一瞬現れる「もう一人の詩人」が次の円環を予感させる。

 鹿鳴館の淑女では、やはり城月美穂がびしっと場を締める。あのピンクのドレスを普段着のように着こなしちゃうのもスゴイ(若い娘は「新婦のお色直し」だったぞー)。もう一人、自然に着こなしてたのはやっぱりヅカ出の多彩しゅんだったのだろうか(自信ない)。

 カテコは死人のように歩くキャストと、老婆+詩人+もう一人の詩人。一度幕がおりて、小町と深草、そしてもう一人の詩人によるワルツ(曲は仮面舞踏会)で幕。その後のアンコールはなし。

 考えてみたら「能」て怪談が多いんかな、と妙なことに気づいてみる。当日の覚書はこちら

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