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【映画】オーケストラ!

オーケストラ!

監督 ラデュ・ミヘイレアニュ/2009/フランス/原題 Le Concert

 ボリショイ劇場の元指揮者、今は清掃員アンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)が目にした一枚のファックス。それはパリのシャトレ座からのオファーだった。アンドレイはオソロシイ計画を思いつく。かつてのオケ仲間たちを集めて、「ボリショイ響」としてシャトレ座に乗り込むのだ!

 かつての首席チェリスト、今は救急車の運転手のグロスマン(ドミトリー・ナザロフ)はアンドレイのために一肌脱ぎ、一緒に仲間たちの説得に回る。まずは有能なマネージャー、かつてのボリショイの支配人ガヴリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)。って、彼はブレジネフのユダヤ人芸術家排斥に逆らったアンドレイを「人民の敵」として指揮者生命を奪い、奏者たちを解雇した張本人のKGBだぞ!

 メインをチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ソリストは新進ヴァイオリニストのジャケ(メラニー・ロラン)を指名し、ついにニセのボリショイ響はパリに乗り込む。着いた途端に団員は「自主行動」だし、ガヴリーロフはフランス共産党大会が目的だけど。ロシア人たちのあまりの無茶ぶりとアンドレイに失望し、キャンセルを申し出たジャケを、グロスマンが説得する。チャイコの協奏曲には隠された秘密があったのだ。さあ、みんな戻ってこい、あの日中断された協奏曲を取り戻すために。

 監督のミヘイレアニュはチャウセスク政権下のルーマニアから亡命したユダヤ系フランス人。この映画も、ソビエト/ロシアにおけるユダヤ人の扱い、さらにはロシアからイスラエルへ移民したユダヤ人たち(グロスマンの別れた妻子がそうだ)の位置づけなどをある程度念頭において観れば「問題の根」の在り処を、ほんのりとでも感じ取ることができるようになっている。しかし、監督自身が「ドラマの発端として悲劇的なことが必要」で「そのための材料」と語るように、それは主題ではない。

 これはまずもって「音楽に取り憑かれた人びと」の物語だ。アレクセイ、グロスマン、市場の売り子やポルノ映画のアフレコで日銭を稼ぎながらも音楽を手放せなかった楽団員たち、そして収容所で死を迎えるソリスト。KGBのエライさんに上り詰めた弾圧者ガヴリーロフですら、その瞬間には天を仰いで「劇場の神様」に祈らずにはいられない。一度憑かれてしまった者は、必ずそこに戻っていく。彼らこそが観客の心を揺さぶり、虜にしていくのだ。音楽の魔力、劇場の魔力を目に見える形にした映画、といってもいい。彼らの「勝利」がなんとも痛快だ。

 そしてこれは東欧(ロシア)と西欧(フランス)の異文化邂逅の物語でもある……のだろう。ロシア人たちの、西欧(と日本)の常識では考えられないような、いっそ痛快な無茶っぷりは……デフォルメされているとはいえ「……やるかもしれない」と思えなくもない。本当に飛行機で酔って騒いで途中で降ろされちゃったオケもあったな……。
  
 ロシア人キャストがそれぞれに個性的で素晴らしい。おっさん好きにとってはまさにパラダイス。グシュコブの指揮はかなり苦労の後が忍ばれるが、そのだめんずっぷりと音楽への情熱、ジャケへの惜しみない愛情が特筆もの。さらにチャイコフスキー。これはモーツァルトのようなセレブ好みの洗練された音楽ではダメだ。チャイコのあまく、俗っぽい音楽こそが、この映画の主役でもあるのだ。

 初出:インパクション 175号(2010.7)

鑑賞当日の日記
公式サイト(音出ます)

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