ドキュメンタリー

【映画】花と兵隊

花と兵隊

松原要樹第1回監督作品/2009年/106分

 アジア・太平洋戦争後に戦地からかえらなかった、いわゆる「未帰還兵」。この映画は、ビルマとタイに住む六人の未帰還兵をめぐるドキュメンタリーである。自分にとっての未帰還兵といえば、横井・小野田両氏だったり、水島上等兵だったり、「ムルデカ」だったりしたのだが、自分のそうした知識とイメージの粗末さを反省した次第。

 六人が日本に帰らなかった理由はさまざまだ。帰ると戦犯になってしまう人、そもそもブラジル移民だった人。その決断はそれぞれに重かったのだろうが、それでもそこから感じるのは、今、二〇〇九年のビルマと日本からはちょっと想像しがたいような「地続き」の感覚だ。一九四五年当時のビルマと日本に時間を巻き戻してみるには知識と想像力が必要だが、今の感覚だけではかると見誤ることも多いだろう。


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【映画】踊れ、グローズヌイ!

踊れ、グローズヌイ!

監督 : ヨス・デ・プッター
2002年/オランダ/75分/カラー/ロシア語
製作 : ツェッパー・プロダクションズ+イコン
日本語版字幕製作 : アムネスティ・インターナショナル日本+東京シネマ新社


 とても美しい映画です。2002年製作なので状況的にはやや古いですし、ドキュメンタリーといっても「解説映画」ではなく、状況についてわかりやすいかというとそういうわけでもない。

 映画の冒頭に掲げられた「軽やかに美しく踊る者は、観る者と自分とを幸福にする」(←正確ではないかも)は、彼らの舞踊団がかつて使っていた稽古場に掲げられたレリーフのことば。これが全体のモチーフでもあります。舞踊団の子どもたちは、日本でいうと小学生から高校2年生くらいまで。これがまたみんな可愛いんだ。花嫁のような衣装の女の子たちも、民族衣装(風?)の男の子たちも。ついでに舞踊団の主催者アフマードフも渋いオヤジでモロ好み(笑)。

 かつて民族舞踊の有名なダンサーだったアフマードフは、引退後に自分の踊りを伝えるために子どもたちを集めて舞踊団を作る。それがチェチェン戦争で散り散りになってしまい(60人中20人が消息不明に)、稽古場も破壊される。それでもアフマードフはもう一度子どもたちを集めて舞踊団を再結成し、国内のみならずヨーロッパへもバスツアーを行う。

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【映画】TOKKO 〜特攻〜

TOKKO 〜特攻〜

リサ・モリモト監督/カラー/89分/2007年度作品/米日映画/原題「Wings of Defeat」

 監督のリサ・モリモトは、渡米した日本人を両親に持つ日系二世。リサは亡くなった自分の叔父が特攻隊員であったと知り、自分の中の「カミカゼ」のイメージと叔父の思い出との違和感から、日本で特攻隊の取材を始める。ニューヨーク育ちのリサは、周囲のアメリカ人と同じように、カミカゼのことを「喜んで自爆する狂信者」だと信じていた。一方、プロデューサーのリンダ・ホーグランドは、日本生まれ、日本育ちのアメリカ人。特攻隊は「喜んで自らの命を捧げた無垢な犠牲者」だと信じていた。この二人が、そのどちらでもない「等身大」の特攻隊員の姿に迫ろうとする。この映画はそのドキュメントである。

 インタビューに答えた元特攻隊員は四名。全員が百里ケ原航空隊で訓練し、四五年三月に特攻の命令を受けている。学徒出陣で入隊し、二度出撃するも、二度ともエンジントラブルで帰還した江名。ベテランパイロットで教官でもあった浜園と、浜園機の偵察員で予科練出身の中島の二人は、目標の米艦隊に到達する前に敵機との空中戦を展開、帰還する。やはり学徒兵の上島は、出撃命令を受けぬまま、訓練中に敗戦を迎える。


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【映画】メランコリア 三つの部屋

メランコリア 三つの部屋

ビルヨ・ホンカサロ監督/カラー/104分/2004年度作品/フィンランド・ドイツ・デンマーク・スウェーデン映画/原題「The 3 Rooms of Melancholia」

隣り合った三つの部屋をつなぐ道

 チェチェン紛争をめぐる、子どもたちを映し出したドキュメンタリー。「三つの部屋」とタイトルにある通り、三つの場面に別れており、一つ一つの「部屋」にタイトルが付いている。しかし、これはチェチェン問題を読み解くための映画では、必ずしもない。一定程度の知識がなければ、何のことかわからないシーンも多い。静かな音楽、最小限の説明と最小限の音。映像詩とでもいった方がよいような静けさの中で、淡々と日常が過ぎていくだけである。部屋が三つならんでいることの意味を読み取るためには、想像力が必要になる。

 一つ目の部屋。サンクトペテルブルクの沖合に浮かぶ、コトリン島のクロンシュタット。バルチック艦隊の基地でもあるそこには士官学校がある。映画に登場するのは十歳から十二歳の少年たち。職業軍人の祖父の希望で入学した少年。親戚の間をたらい回しにされた末にやってきた少年。母子家庭で、母も軍人としてチェチェンに赴任したためにやってきた少年。そしてチェチェンに駐留していた父を失った、グロズヌイ生まれのロシア人の少年。多くの少年が「保護者の不在」「居場所の確保」のために、この学校へやってきている。それは貧困や奨学金のために「志願兵」となる青年たちと、同じ構造だ。

 海を渡った対岸では、やはり同じ年ごろの子どもたちが名門のバレエ学校や音楽学校で学んでいる。かつてニジンスキーが貧困のために名門ワガノワ・バレエ・アカデミーに入学したことは有名だが(寄宿舎も授業料も無料だった)、この少年たちが学んでいるのは敬礼の作法であり、行進の仕方であり、銃の撃ち方だ。行き着く先は世界のひのき舞台ではなく、戦場そのものである。

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【映画】戦場のフォトグラファー

戦場のフォトグラファー ジェームズ・ナクトウェイの世界

クリスチャン・フレイ監督/カラー/2001年度作品/スイス映画/35mm/原題「Warphotographer」

 不勉強なもので、ジェームズ・ナクトウェイという写真家を知らなかった。というより、海外の報道写真家といえば、キャパくらいしか知らないのだが。で、チラシの宣伝文によれば、ナクトウェイは「キャパの魂を受け継ぐ」とされているのだが、印象は全然違う。よかれ悪しかれ自己演出に長け、「すかしたキザ野郎」なキャパと、ある意味対極にいる人物だ。

 ジェームズ・ナクトウェイ、一九四八年生まれ、戦場カメラマン。そのドキュメンタリーである。

 この映画のために、ナクトウェイのカメラには上下に小さなカメラが取り付けられている。下のカメラはナクトウェイのカメラ越しに斜め上・後方に向かって、ファインダーを覗く彼を捉える。上のカメラは前を向き、ナクトウェイがレンズ越しに見ている光景を(実際にはナクトウェイの目線よりちょっと上なのだが)、私たちに提供する。戦場で取材するナクトウェイを取材するのに、周囲のクルーを気遣わずに、そしてわずらわされずにすむように作られた小型カメラなのだが、おかげでこの映画の何分の一かは「ナクトウェイが自分で撮った」ものになった。写真家のドキュメンタリーとしては、この上なく豪華である。コソボで、パレスチナ(ラマラ)で、ジャカルタで、私たちは彼の目に限りなく近い光景を共有し、シャッターを押す指を感じることができるのだから。

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【映画】プロミス

プロミス

ジャスティーン・シャピロ、B.Z.ゴールドバーグ監督・プロデューサー/カルロス・ボラド共同監督/カラー/104分/2001年度作品/アメリカ映画/原題「PROMISES」

何を彼らに約束できるだろう?

 イスラエルとパレスチナの七人の子どもにインタビューしたドキュメンタリー映画である。七人の子どもは、西エルサレムに住むユダヤ人の双子ヤルコとダニエル、東エルサレムに住むアラブ人マハムード、エルサレム旧市街に住む正当派ユダヤ教徒シュロモ、デヘイシャ難民キャンプのファラジとサナベル、そしてベイト・エル入植地に住むモイセ。インタビュアーのゴールドバーグ監督は、ボストン生まれエルサレム育ちのユダヤ人、シャピロ監督はバークレー育ちのユダヤ人、ボラド共同監督はメキシコ人だ。そして「比較的平穏な一九九七〜二○○○年」(映画字幕)、すなわち「第二次インティファーダ」直前までに撮影されている。「比較的平穏な」時期。切ないことばだ。

 映画は七人をとりまく日常を描きながら、アラブ人・ユダヤ人についてのそれぞれの考えや感情を明らかにしていく。観客である私たちがみるのは、それぞれがお互いに対して与えられたイメージの中でしか考えず(もちろん彼らなりの具体的な根拠のあるイメージなのだが)、それ故にむしろお互いに似通ったイメージを抱いている不思議さである。つまり「アラブ人はみんな、」そして「ユダヤ人はみんな、」土地を不当に奪おうとしている、僕たち全部を殺そうとしている、あいつらみんなやっつけてやりたい……。その中を奇妙な媒介者としてユダヤ人であるゴールドバーグ監督が往復していく。幾人かの子どもたちにとって、この映画はその往復運動による「お互いの発見」の過程でもある。

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【映画】花はどこへいった

花はどこへいった〜ベトナム戦争のことを知っていますか
坂田雅子監督/シグロ/2007年/71分/英題 Agent Orange--a personal requiem

 『タイム』誌を中心に活躍したフォトジャーナリスト、グレッグ・デイビス。2003年、彼は肝臓ガンで突然この世を去る。なぜ彼が死ななくてはならなかったのか、妻の坂田雅子は、彼の友人から、彼がベトナム戦争に従軍していた時に浴びた枯葉剤が原因ではないのかという示唆を受け、ベトナムへ向かう……。

 冒頭のバエズの歌う「雨を汚したのは誰?」とそこに流れる風景があまりにも美しいこのドキュメンタリー映画の軸はおおまかに三本。グレッグというフォトジャーナリストの人生。枯葉剤作戦と被害の現状。そして「障害者福祉」。

 まずもって驚かされるのは、少なくとも2000年までは枯葉剤による障害を持った子どもが産まれ続けていたという現実だ。個人の浴びたものだけではない。土壌と水の汚染が、今でもベトナム社会を脅かしている。ヒロシマやナガサキでそこまでの話は聞かない。チェルノブイリはどうか。セミパラチンスクは? 劣化ウラン弾の使われたイラクや旧ユーゴでは? 

 被害者に対する米国の態度は呆れるほど変わっちゃいない。ベトナムの被害者からの賠償請求に対し、米司法当局は「米国の兵士を守るために使われたのであり、そこに住む人々に害を加えることを目的としたものではないので、戦争犯罪ではない」との判決を出している。原爆だって「米国の兵士を守るため」だからなぁ。核実験、枯葉剤、そして劣化ウラン弾。米兵ですら自国のための実験材料であり、使い捨ての存在にすぎない。「軍隊は市民を守らない」というのはもはやありふれたキャッチコピーだが、軍隊は自国の兵士すら守らない。実に首尾一貫している。感心してる場合じゃないのだが。そしてまたしても「モンサント」である。ダイオキシンを含んだ枯葉剤「オレンジ・エージェント」の製造元のひとつだ。何度この名前を聞けば気が済むんだか。

 「兵士を殺さないことで障害者をたくさん作り、(福祉に予算を使わせることを含めて)敵国の国力を弱める」という「効果」を期待されている兵器は存在する。その発想自体がオソロシイが、枯葉剤の場合も結果的に同じ「効果」を生んでいる。ホーチミン市の大きな産婦人科病院の院長である女医は、(妊婦の)超音波検診による胎児の異常の早期発見を進めていると語る。もちろんそれは中絶のためだ。「戦争はまだまだ続いている。だから戦争はいけない」。従軍中に枯葉剤を浴びた元米兵が語る。そこへいたるまでの「犠牲」の大きさに、呆然と立ち尽くす。

 この映画は公開を前提にせずに作られたそうである。監督も映画を撮るのはまったく初めて。非常によく整理されてわかりやすい作りになっているし、監督の人々へのぬくもりのあるまなざしはよく伝わってくる。反面、監督のナレーションは早口すぎて煩わしい場面もあり、全体に語りすぎであるとの印象はぬぐえない。


初出『インパクション』164号 2008.7

公式サイト  関連日記 追記は「続きを読む」に

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